2020.6.12 更新

交通事故の慰謝料請求には時効がある|期限を中断させる方法まとめ

交通事故で慰謝料請求の時効が5年とは知りませんでした。これからどうするべきなのでしょうか?

損害賠償請求権はいつまでも存在し続けるとは限りません。
民法には消滅時効制度、除斥期間制度が設けられており、一定期間を過ぎると、権利は行使できなくなってしまいます。

つまり、事故直後は300万円請求できたのに、何もせずにいるとある日突然全く請求できなくなってしまうのです。
恐ろしい制度のように感じるかもしれませんが、権利がなくなるのは「何もせずにいた場合」です

ここでは、時効を中断させる方法についてご説明します。

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示談を急ぐ加害者と引き伸ばしたい被害者

実務上、交通事故における約9割のケースが示談によって解決しています。示談が成立するには双方の合意が必要であるため、被害者、加害者ともそれなりに納得できる解決策が導かれているといえますが、示談の場における双方の感情は通常相反しています。

交通事故の被害者の中には、加害者から「早く示談をしてもらえないか」と頭を下げられる人がいます。交通事故を起こして罰金刑や懲役刑に科せられるおそれのある加害者は、一刻も早く示談を成立させ、被害者の処罰感情が薄いことや加害者が反省していることを裁判所(または検察官)に示したいと考えているのです。

執行猶予がつかず実刑になるおそれのあるケースであっても、示談が成立していることで、執行猶予が付き、それまでと変わらない生活を送れるケースがあります。また、略式裁判となって罰金を支払わなければならないケースでも、示談の成立によって、不起訴(起訴猶予)となることがあります。

このような理由から、特に被害者やその遺族が示談に応じたくないと強く考えるような、被害者が死亡したケースや前方不注意や速度違反など明らかに過失があるケースほど、加害者としては示談を急ぎたいと考える傾向にあります。

被害者がすぐに示談しない方が良い理由

一方、被害者としては、当座をしのぐためにいくらかのお金をもらいたい気持ちはあるものの、早急に示談交渉を進めるつもりはないと考えています。事故のショックが癒えていないうちに加害者と向き合うのは精神的にも負担が大きく、また通院を続けているうちは治療費としていくらかかるのかもわかりません。いったん示談を成立させてしまうと、その額を超えて請求することができなくなるため、後遺症が残る可能性がある限り、示談をすべきではないともいえます。

たとえば、むちうちは12級13号や14級9号の後遺障害に該当すれば後遺障害の慰謝料だけで100万円を超える額を請求できる可能性がありますが、認定される前に示談すると極めて少額しか支払ってもらえないことになります。このため、通常は治療を続けてもこれ以上症状が良くなるとはいえない状態(症状固定)に至ってから、示談を成立させます。もし当座をしのぐためにお金が必要なのであれば、後述するように仮渡金を請求すると良いでしょう。

相手側の保険会社が示談を急ぎたい理由

これに対し、支払額を抑えたい加害者や保険会社には、請求額が増える前に示談したいという思惑があります。このように、示談の場では加害者と被害者の感情が相反しています。示談は、お金を受け取る代わりに損害賠償請求権などを放棄して事件を終了させる合意なので、原則として示談金以外のものを請求することはできません。

しかし、交通事故の被害者には、数年後に思いがけない症状が襲い掛かることがあり、その治療費などを請求できないのは不公平です。そこで、全損害を正確に把握しがたい状況で、少額の賠償金をもって満足する旨の示談がなされた場合など例外的な事情があれば、新たに発覚した後遺症について請求することができると考えられています(最判昭43・3・15判時511号20頁)。

損害賠償請求権の時効は5年(人身事故の場合)

とりわけ死亡事故の場合など、突然の交通事故に多くの被害者は動揺し、すぐに行動することができません。しかし、損害賠償請求権には消滅時効期間が定められており(自賠責法4条、民法724条)、一定期間何もせずにいると、治療費や慰謝料などを請求できなくなってしまいます。

具体的には、民法に「不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。」(民法724条前段)、「人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第1号の規定の適用については、同号中「3年間」とあるのは、「5年間」とする。」(民法第724条の2)と定められており、「損害及び加害者を知った時」は以下のように考えられます。交通事故を起こした加害者には負傷者の救護措置義務、危険防止措置義務(道路交通法第72条1項前段)、警察への報告義務(同項後段)が課せられていますので、通常被害者は事故後すぐに加害者が誰であるかを知ることができます。

このため、物損による修理代やレッカー代などの損害、傷害による損害、死亡による損害いずれであるかを問わず通常のケースであれば「事故日の翌日」が「損害及び加害者を知った時」として時効の起算点になります。もし事故後明らかでなかった後遺症が後々発覚し、治療費などが必要となった場合には、事故の時点で損害を知ったとはいえません。

このようなケースでは、必要な費用を把握できたとき、すなわち「症状固定日の翌日」が「損害を知った時」として時効の起算点になります。これに対し、当て逃げ事故やひき逃げ事故であれば事故後すぐに加害者が誰であるかわかりません。

もし後日加害者が警察に連絡すれば、被害者は加害者を知ることができるので、「加害者を知った」といえそのときから時効期間が進行しますが、加害者が見つからなければ一向に「加害者を知った」ときが訪れません。しかし、たとえば交通事故の25年後に加害者が見つかったからといって、治療費や慰謝料などを請求できるわけではありません。

慰謝料について詳しく知りたい方は【保存版】交通事故の慰謝料相場はいくら?必ずわかる計算方法まとめもあわせてご覧ください。

時効は最長でも二十年しか引き延ばすことはできない

民法上、消滅時効の制度が設けられており、「不法行為の時から二十年を経過したとき」(民法724条後段)も治療費や慰謝料などを請求できなくなってしまいます。すなわち、不法行為である「事故の翌日」が起算点となり20年を経過すると、一切請求できなくなります。消滅時効を考えるときに注意すべきなのが、初日不算入の原則(民法140条)によって「事故日」ではなく「事故の翌日」、「症状固定日」ではなく「症状固定日の翌日」が起算点となっていることです。

被害者に行動を急かせ、当て逃げやひき逃げの加害者を取り逃がしてしまう消滅時効の存在に疑問をもつ方がいるかもしれません。確かに3年が短すぎるという意見もあったことから2020年4月より、交通事故によって生命身体を侵害されたときの損害賠償請求権の消滅時効期間は5年に延長されました。

しかし、消滅時効の制度自体がなくなることはないでしょう。人の記憶が年月とともに薄れていくように、長期間経過した後にさかのぼって過去の出来事を争うことは極めて困難です。

たとえば25年後に見つかった加害者に対して、「あなたの起こした事故によって、むちうちになって、仕事を辞めなければならなくなった。その分のお金を支払え」と要求しても、カルテ(保存期間5年、医師法24条)も労働者名簿、解雇に関する重要書類(保存期間3年、労働基準法109条)も残っていませんので、客観的な証拠に基づく主張ができず、請求に応じてもらえないでしょう。

裁判所としても、被害者の言い分が正しいのか判断することができず、結局、被害者の主張を認めることができません。このような理由から、消滅時効の制度が設けられています。

時効を中断させる3つの方法

  1. 請求
  2. 差押え、仮差押え又は仮処分
  3. 承認

消滅時効制度の背景には、「権利の上に眠る者は保護する必要がない」との考えがあります。つまり、権利を行使したいならばきちんと主張していくことが大切で、権利があるからといって何もしない人まで保護する必要がないと考えられているのです。条文上も「損害及び加害者を知った時から物損事故の場合3年、人身事故の場合5年『行使しない』とき」と定められています。

このため、消滅時効によって権利がなくなってしまうのを防ぐには、きちんと主張しなければなりません。
また、事故日の翌日から20年を経過することでも、長期消滅時効の制度により行使できなくなります。

まず民法上の中断事由として、「請求」「差押え、仮差押え又は仮処分」「承認」が定められています(民法147条)。請求には訴訟提起、支払督促の申立て、民事調停の申立てなどの裁判上の請求と内容証明郵便を送付して催告する裁判外の請求の2種類があります。もっとも、裁判外の請求では時効の完成を6ヶ月遅らせる効果しかなく、時効中断の効力を生じさせるためには訴訟提起など裁判上の請求をする必要があります(民法153条)。

債務の承認とは、加害者が念書を作成したり、賠償金の一部を支払ったりして、支払義務を認めることです。また、保険会社の調査によって損害金が確定し保険金が正式に支払われる前に仮渡金を受け取った場合でも、債務の承認があったとして、時効は中断します。仮渡金を請求するには仮渡金支払請求書、交通事故証明書、診断書などを保険会社に提出しなければなりません。仮渡金を受け取れるのは1回だけで、もし加害者に過失がなければ調査終了後に返還することになります。

なお、平成20年より前には長期間の治療が必要な場合に支払われる内払金の制度がありましたが、平成20年に廃止されました。このように「請求」「差押え、仮差押え又は仮処分」「承認」で時効期間は中断しますが、中断という言葉が示すとおり、これらを行えば時効期間は中断するものの、再び刻一刻と権利消滅に向けて動き出します。

たとえばいったん加害者に「5000万円支払います」という念書を作成させたとしても、その4年後に変わらず請求できるわけではありません。権利の上に眠る者は保護に値しないので、権利を行使し続ける必要があるのです。強制執行の制度があるため実務上はほとんどありませんが、お金を受け取れないまま事故から20年を過ぎてしまうと、時効によって権利は消滅してしまうことになります。

裁判をせずに慰謝料を請求する際の時効

また、裁判外紛争解決手続(Alternative Dispute Resolution)、略してADRを利用して治療費などを支払うように加害者に求めることができます。交通事故の際に利用するのは公益財団法人日弁連交通事故処理センター、公益財団法人交通事故紛争処理センターです。訴訟と異なり、実際にお金を受け取るためには相手が合意しなければなりません。

このため、場合によってはADRで交渉しているうちに、事故日の翌日から5年が過ぎてしまうことがあります。このような場合に、被害者が消滅時効によって権利を失うことを防ぐため、時効期間を過ぎてしまう前にADRの手続きを始めており、ADR終了後1ヶ月以内に訴訟を提起すれば、ADRの手続き開始時に訴え提起があったものとみなすとされています(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律25条)。

つまり、時効期間経過前にADR手続きを開始していれば、一定の場合の要件を満たす限り、時効によって権利は消滅することはないということです。ただし、この「一定の場合」が法務省から注意喚起されるほどなかなか複雑なので、注意が必要です。

弁護士に相談でスムーズ解決

消滅時効や除斥期間は、賠償金の額に左右されず、1億円の請求権であっても100万円の請求権であっても一定期間を過ぎると消滅してしまいます。死亡事故の場合には賠償金の額が1億円を超えることも珍しくなく、残された家族を支えてくれるでしょう。

大切な人を亡くし、悲しみに暮れる気持ちはもっともですが、時効によって権利が消滅してしまう前になるべく早く行動してください。弁護士が急増したことに伴い、カウンセリング資格を有する弁護士も増えてきていますので、もし事故の状態を話すことがつらく精神的なケアが必要な状態であれば、そういった弁護士に相談すると良いでしょう。

また、交通事故の実績が豊富な弁護士に相談することで、より的確なアドバイスをもらうことができます。交通事故の慰謝料が増額できるだけでなく、弁護士に相談すればケースに応じて交渉や訴訟提起を進めてもらえるので、もう時効によって権利が消滅する心配をしなくてもよくなります。

時効期間を過ぎてしまうことは重大な弁護過誤なのでそのような弁護士はいないと考えられますが、弁護士によっては、ほかの案件が忙しいあまりこまめな連絡を怠る可能性もありますので、弁護士を選ぶ際には信用に足る人物を選びましょう。周囲に弁護士に相談した経験のある方がいるなら、その方に尋ねてみるのも一つの手です。

よろしければこちらの記事も参考にしてください。
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