2020.12.14 更新
交通事故の治療費に使える?健康保険を使うべき理由と注意点

交通事故によるケガの治療費は、自動車保険で治療を受けるのが一般的ですが、健康保険で治療を受けるのは可能です。
交通事故によるケガの治療費は、加害者や自動車保険が支払うものです。
そのためか「健康保険は使えない」のような誤解が一部で広がっています。
しかし、被害者が示談交渉まで一時的に立て替えるケースもあるため、利用したいと考えるのは当然のこと。
自己負担を1〜3割に抑えられるほか、治療費の負担が高額になってしまった場合は高額療養費制度も活用できるなど被害者にとってメリットはたくさんあります。
ただし、交通事故の健康保険適用は通常と異なり、必要な手続きや注意点もあります。
そのため、基本的な仕組みを正しく理解しておくことが大切です。
この記事では、健康保険を使うときの手続きや注意点を紹介しながら、利用すべきケースとそうでないケースについて解説していきます。
目次
健康保険を使ったほうがよい4つの理由
交通事故によるケガの治療でも、健康保険は利用できます。
健康保険を使ったほうがよい理由について紹介します。
理由(1)過失相殺のときの自己負担額が減る
交通事故においては過失割合によって、被害者側もいくらかの治療費を負担しなければならないケースもあります。
「過失相殺」という仕組みによって、交通事故の被害者であっても、過失割合によっては損害賠償額が減ってしまうこともあるのです。
被害者となってしまったときには、「自分に落ち度はないから過失ゼロ」という心理が働いてしまうこともあるでしょう。
しかし、実際には何らかの過失割合が生じてしまうケースも珍しくありません。
そうした場合に健康保険を適用しなければ、ケガの治療費の負担は増えてしまい、かえって多くのお金を支払わなければならないケースもあるので注意が必要です。
健康保険を使った場合と使わなかった場合の自己負担額の差は、以下の表の通りです。
【過失割合】加害者:被害者=8:2 【治療費】100万円のケース
健康保険を使ったケース | 健康保険を使わなかったケース | |
---|---|---|
病院に支払った金額 | 30万円 | 100万円 |
被害者が請求できる金額 | 24万円 | 80万円 |
自己負担額 | 6万円 | 20万円 |
理由(2)任意保険未加入のケースでは請求できる治療費に上限がある
加害者自身が任意保険に加入していないケースでは、基本的に自賠責保険基準での示談交渉となります。
自賠責保険では支払額に上限が設けられていることもあり、最大でも120万円までしか請求ができません。
ただ、損害賠償請求においては治療費や慰謝料以外にも、逸失利益(将来受け取れるはずだった収入に対する補償)や休業補償などさまざまな請求ができる可能性もあります。
健康保険を適用することで、これらの損害賠償を請求できる場合があることも押さえておきましょう。
理由(3)高額医療費制度があるので長期入院でも負担が少ない
治療費を「いったん被害者が立て替えて、あとで加害者側に請求する」としているケースもあります。
あとで支払われるとはいえ、ケガの治療のために入院や通院が長引いてしまえば、治療費の負担が高額になる心配もあるものです。
しかし、健康保険の仕組みの1つとして「高額療養費制度」が設けられているので、うまく活用すれば自己負担を軽減できます。
高額療養費制度は、家計の負担が重くならないように作られたものであり、1ヶ月にかかった医療費をベースとして計算されます。
基本的には医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が上限額(自己負担限度額)を超えたときに、その分を補てんしてもらえる制度です。
上限額は年齢や所得によって決められており、「健康保険高額療養費支給申請書」を提出することによって、払い戻しが受けられます。
ただし、払い戻しは医療機関によって提出された診療報酬明細書(レセプト)の審査をもとに行われるため、治療を受けた月から数えて3ヶ月以上かかります。
払い戻しまでの負担軽減のために、高額療養費支給見込額の8割程度を無利子で貸し付ける「高額医療費貸付制度」もあるので活用してみましょう。
また、医療費が高額になることがあらかじめ分かっている場合には、「限度額適用認定証」を発行してもらっておくと便利です。
医療費の自己負担額は世帯(協会けんぽに加入している被保険者と被扶養者)で合算することができるので、領収書などをきちんと保管しておきましょう。
合算をする際の注意点としては、70歳未満であれば合算できる自己負担額は21,000円以上であり、70歳以上であれば全額を算入できる点です。
参考:厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」
理由(4)相手方の保険会社が治療費を打ち切る可能性がある
治療を継続中であっても加害者側の保険会社から、治療費の支払いを途中で打ち切られてしまうパターンもあります。
通院が数ヶ月の長期にわたる場合に多く見られるケースであり、いったん打ち切られてしまうと自費で治療を続けていかなければなりません。
この場合には、健康保険を利用して通院を継続したうえで、支払いをした証明として診療報酬明細書などをとっておきましょう。
交通事故の被害者は治療費の負担を加害者に請求する権利があります。
医師と相談の上、治療の必要性をしっかりと主張していくことが肝心です。
また、加害者側の保険会社から健康保険への切り替えを求められた場合には、担当医師に意見書を書いてもらいましょう。
どのくらいの治療が必要なのかを客観的に判断してもらう意見書は、保険会社との交渉材料として活用できます。
交通事故の治療で健康保険が利用できないケース
ケガの治療に健康保険を利用することにはメリットがあるものの、場合によっては健康保険を使わないほうがいい・使えないケースもあります。
国から認可の降りていない医療行為を受ける
健康保険を利用するということは、保険の適用が受けられる範囲でしか診療が受けられないことを意味しています。
そのため、国から認可の降りていない医薬品を使用するなど、治療の幅を広げたいという希望がある場合には注意が必要です。
整骨院や接骨院での治療行為は注意
整骨院や接骨院など「病院ではない」機関に通うときは注意が必要です。
もちろん認可された整骨院などで、マッサージなどの施術を受けるのは正当な治療活動ですので、認可を受けた医院であれば健康保険が利用できます。
しかし以下のようなケースでは利用できません。
・過去の交通事故による首肩の痛み
・整形外科など医療機関で治療と並行して治療を受ける
・整形外科医など医師の同意がない
まずは整形外科医の同意を得た上で、健康保険が利用できる整骨院などに通うようにしましょう。
仕事中に交通事故にあった
仕事中や通勤途中にケガをした場合は、健康保険を使用できません。
この場合は労災保険を利用しましょう。
労災保険は任意保険と異なり「過失相殺されない」「補償額に上限がない」のがメリットです。
したがって、自分の過失割合が大きいケースや相手が任意保険に未加入のようなケースでも補償がなされるので安心してください。
もし健康保険を使用した場合は、以下のいずれかの対処をしましょう。
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)に連絡し、医療費を返却して労災保険へ請求する
- 病院など医療機関で労災保険に切り替える
労災保険の利用方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
過剰診療
ケガの治療にあたっては過剰診療とみなされないことも重要です。
過剰診療とは医学的に見て、治療の必要性や重要性がない診療のことを指します。
保険で治療費がまかなわれるからといって、健康保険を使わずに自由診療を受け過ぎてしまうと、過剰診療とみなされることもあります。
この場合には、治療費の支払いが認められないケースもあるので、事前に医師や保険会社に確認をとっておくことが大切です。
被害者にも重大な過失がある
被害者だからといって故意や重大な過失(飲酒運転・無免許運転など法令違反)の事故の場合は健康保険は使えません。
健康保険を使ったときに必要となる「第三者行為による傷病届」の手続き
交通事故など第三者の行為によってケガを負ってしまったときに、健康保険で治療を受けるのであれば届出が必要になります。
「第三者行為による傷病届」を協会けんぽ(全国健保協会)に提出しなければならないため、必要となる書類と注意点についても押さえておきましょう。
届出が必要な理由
第三者行為による傷病届の提出が必要になるのは、交通事故によるケガの治療費は本来であれば、加害者側が負担するのが原則だからです。
しかし、健康保険を利用して被害者が治療を行うと、加害者側が負担すべき治療費を健康保険が立て替えて支払う形となります。
そのため、協会けんぽが後から加害者に対して健康保険によって給付した費用を請求するため(求償権の行使)に、第三者行為による傷病届が必要になるのです。
手続きを行うときに必要となる書類
届出を行う際には、まず「交通事故、自損事故、第三者(他人)等の行為による傷病(事故)届」が必要になります。
この書類は基本的に被保険者、つまり被害者本人が記入するものですが、加害者側の保険会社に依頼できる場合には相手方の記入でも問題ありません。
届け出に必要な書類は主に以下の4つで、全国健康保険協会(協会けんぽ)のホームページよりダウンロードできます。
負傷原因報告書
業務上もしくは通勤中のケガでないことを証明する書類です。
事故発生状況報告書
事故状況や過失割合を判断するための重要書類であり、事故証明書などをもとに記入します。
損害賠償金納付確約書・念書
加害者側に記入してもらう書類です。加害者から署名を拒否された場合は、余白に記入できない理由を記入して提出しましょう。
同意書
協会けんぽが加害者側に損害賠償請求を行うときには医療費の内訳を示すため、個人情報の提供に関する同意が必要になります。
届出をする際の注意点
届出を行う前に加害者側と示談交渉をするときには、事前に協会けんぽに対して連絡をしておく必要があります。
これは、協会けんぽが加害者側に治療費を請求できなくなるのを防ぐためです。
また、相手方に白紙委任状を渡すようなことも避けましょう。
届出を行う際には、交通事故証明書の添付が必ず必要になります。
健康保険をめぐる保険会社や病院とのやりとり
健康保険を利用して治療を受けようとしても、保険会社や病院とやりとりに戸惑いを感じてしまう場面もあります。
どのような問題が起こり得るのかについて見ていきましょう。
保険会社への対応
ケガの治療を行おうとした際に、加害者側の保険会社の担当者から、「健康保険を適用して治療してください」と言われることがあります。
この場合は健康保険を使っても問題はなく、被害者・保険会社の双方が支払う治療費を抑えられるため、特に損となる部分はありません。
病院への対応
一方で、ごく稀なケースといえますが、病院から「健康保険を使わないでください」と言われてしまうケースもあるそうです。
自由診療を勧めてくる病院に見られるもので、どのような診療を受けたいのかを考える必要があります。
治療の幅を広げたいというのであれば、健康保険を使わずに自由診療とするのも1つの方法です。
ただし、健康保険を使えない病院はないので、診療方針に納得ができないときには他の病院に変えるのもよいといえます。
治療費のことで悩んだら弁護士に相談しよう
交通事故の治療費負担について、保険会社や医療機関と揉めてしまう場合もあるでしょう。
1人で悩んでしまわずに、弁護士に相談するほうが問題の早期解決を図りやすくなります。
弁護士に依頼をすることで、治療のためのアドバイスを受けられるだけでなく、損害賠償金を増やせる可能性もあるのです。
最適な治療方法をアドバイスしてもらえる
交通事故案件を多く扱う弁護士であれば、健康保険を使った診療や自由診療などについても詳しいといえます。
そのため、どのような治療方法を選ぶべきかアドバイスを受けることができ、安心して治療に専念できるはずです。
また、健康保険を使おうか迷っていたり、相手方の保険会社から治療費の打ち切りを伝えられて困ったときには、弁護士は被害者の心強い味方となってくれます。
面倒な手続きや相手方との交渉を任せられるため、時間的・精神的な負担を軽減できるでしょう。
損害賠償金を増額できる可能性もある
弁護士に示談交渉を任せることで、過失割合を減らしたうえで損害賠償金を請求できる可能性もあります。
弁護士基準によって慰謝料などの損害賠償金を算出するため、自分で交渉するよりも金額が高くなる傾向にあるのです。
被害者自身が任意保険に加入している場合、弁護士費用特約のオプションがついているなら、弁護士に支払う報酬の心配もなくなります。
事故にあった際には加入している保険会社に連絡をして、弁護士費用特約が使えるのかを確認し、早めに弁護士に相談することが大切です。
まとめ
交通事故によって負ったケガを治療するときには、健康保険を利用できます。
健康保険や高額療養費制度をうまく活用することで、治療費の自己負担額を軽減してみましょう。
ただ、健康保険の利用を巡って、相手方の保険会社や医療機関と揉めてしまうこともあります。
そのような場合には1人で悩まずに、弁護士に相談をしてみましょう。
治療に関する適切なアドバイスを受けられるだけでなく、損害賠償金を増額できる可能性もあります。
事故後の対応による負担を軽くして、安心して治療に専念するためにも弁護士のサポートを受けることが大切だと言えます。
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