2020.10.17 更新
交通事故で骨折したときの慰謝料は?部位・症状ごとの慰謝料について詳しく紹介
骨折の治療は、基本的に自然に骨がくっつくのを待つことです。
そのため交通事故が原因で骨折してしまった場合、「通院回数が少ないから、慰謝料も少なくなってしまうのでは?」と不安を感じてしまうこともあります。
しかし、交通事故の慰謝料は、通院頻度だけで金額が決まるものではありません。
また、ケガが完治せずに後遺症が残ったときには、後遺障害認定を受けることで適正な補償が受けられます。
この記事では、骨折の場合にもらえる慰謝料の金額について詳しく解説していきます。
骨折したときの慰謝料の計算方法と治療期間の目安
では交通事故で骨折したときの慰謝料額の目安について、詳しく解説していきます。
慰謝料の計算方法と3つの基準
■慰謝料のとらえ方
交通事故における慰謝料は、職業や年収など被害者の立場によって、金額が変わることはありません。
なぜなら、慰謝料は交通事故の被害に対する精神的なダメージを補償するものだからです。
交通事故の慰謝料計算においては、治療期間が長引く、通院頻度多くなると、精神的なダメージが大きいとみなされます。
■計算の基準は3つある
慰謝料を計算する基準は1つではなく、自賠責保険基準・任意保険基準・弁護士基準(裁判基準)という3つの基準があります。
どの基準を使って計算するかで、慰謝料額は大きく異なってくるのです。
3つの基準について特徴をまとめると、以下のようになります。
自賠責保険基準
自動車やバイクの保有者が加入を強制されている保険であり、自動車損害賠償法(自賠法)を根拠としています。
交通事故の被害者に対して最低限の補償を目的としており、もっとも低い基準額になります。
任意保険基準
保険会社が独自で設定している基準であり、一般的な自動車保険のことを指します。
金額は保険会社によって異なりますが、多くの保険会社は旧任意保険基準を踏襲した金額であるため、自賠責保険基準と同等か、それを少し上回る程度です。
弁護士基準(裁判基準)
弁護士会が過去の裁判例をもとに発表している基準であり、主に弁護士に依頼したときや裁判になったときに採用される基準となります。
3つの基準のうちで、もっとも高い金額となりますが、過去の裁判例を参考にしているので問題ありません。
それぞれの基準でどれくらい金額に違いがあるかを比較するために、通院のみ3ヶ月と6ヶ月のケースで見てみましょう。
通院期間 | 自賠責保険基準 | 任意保険基準 | 弁護士基準(裁判基準) |
---|---|---|---|
3ヶ月 | 25.2万円 | 37.8万円 | 53~73万円 |
6ヶ月 | 50.4万円 | 64.3万円 | 89~116万円 |
※ひと月の通院回数は10回として算出
※任意保険基準は推定
※弁護士基準(裁判基準)は日弁連「民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準2020年版」参照
入院時の慰謝料額と治療期間の目安
■入院時と通院時の慰謝料額の違い
ケガの治療のために入院をしたときには、通院の場合よりも慰謝料額は高くなる傾向にあります。
入院時と通院時の入通院慰謝料を比較すると、以下のような違いがあります。
入通院期間 | 自賠責保険基準 | 任意保険基準 | 弁護士基準(裁判基準) |
---|---|---|---|
入院のみ1ヶ月 | 12.6万円 | 25.2万円 | 35~53万円 |
入院のみ2ヶ月 | 25.2万円 | 50.4万円 | 66~101万円 |
入院のみ3ヶ月 | 37.8万円 | 75.6万円 | 92~145万円 |
通院のみ3ヶ月 | 25.2万円 | 37.8万円 | 53~73万円 |
※ひと月を30日とし、通院回数は10回として算出。自賠責保険基準では日額4,200円(2020年4月1日以降の事故は4,300円)で計算
※任意保険基準は推定
※弁護士基準(裁判基準)は日弁連「民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準2020年版」参照
入通院慰謝料はケガの程度にかかわらず、入院・通院をした期間や日数をもとに計算されます。
そのため、入院や通院が長引くほど慰謝料額は高くなると言えるでしょう。
■治るまでに必要な治療期間の目安
骨折の治療期間は部位や程度によって大きく異なるため、一概にはいえませんが、目安としてGurlt(グルト)とColdwell(コールドウェル)の表を参考にしています。
Gurltは骨がつながるまでの最短日数を示すもので、Coldwellは標準的な治療期間を示すものです。
それぞれの表を比較すると、以下のようになります。
部位 | Gurlt(グルト) | Coldwell(コールドウェル) | |||
---|---|---|---|---|---|
仮骨出現 | 骨癒合まで | 機能回復まで | |||
指骨 | 2週 | 2~3週 | 3~6週 | 6週 | |
肋骨 | 3週 | ||||
鎖骨 | 4週 | ||||
上腕骨 | 下端部 | 2~4週 | 6週 | 8週 | |
骨幹部 | 6週 | 2~4週 | 6週 | 8週 | |
上端部 | 7週 | 2~4週 | 6週 | 8~12週 | |
骨盤 | 4週 | 8週 | 8~16週 | ||
大腿骨 | 頸部 | 12週 | 12週 | 24週 | 60週 |
転子間部 (脚の付け根) |
4週 | 12週 | 16週 | ||
骨幹部 | 8週 | 6週 | 12週 | 14週 | |
顆上部 | 6週 | 12週 | 14週 | ||
膝蓋骨 | 6週 | 6週 | 6~12週 | ||
踵骨 | 6週 | 8週 | 12~14週 |
この表からはケガの程度や部位によって、実際に治療に必要な期間に違いがあることが分かります。
指骨や鎖骨、上腕骨や肋骨などは比較的短い期間で治療が終わる傾向にあります。
一方で大腿骨や足関節、骨盤などのように治療が済むまでに時間がかかってしまう部位もあるのです。
また、同じ部位の骨折であっても、骨が体内に止まった状態(単純骨折)とバラバラに砕けてしまった状態(粉砕骨折)では治療期間が異なります。
骨折は年齢や健康状態によっても治療期間が違いため、医師の指示に従って治療を継続することが重要です。
後遺障害認定とは?骨折で後遺症が残ったら申請しよう
交通事故による骨折で治療を続けても、完治せずに後遺症が残ってしまうことがあります。
治療の甲斐なく後遺症が残ったときは、後遺障害等級認定を受ける必要があります。
後遺障害等級認定とは、事故後に残ってしまった後遺症の重さを医学的根拠にもとづいて判定する手続きです。
後遺障害と認められることで入通院慰謝料だけでなく、後遺障害慰謝料も請求できます。
事故後の生活を立て直し、将来の不安を解消するためにも、症状に見合った等級認定を受けることが大切です。
骨折で後遺障害と認められる可能性
後遺障害等級の認定基準は等級ごとに定められています。
骨折で考えられる後遺障害の種類・症状と、対応する後遺障害等級の目安は以下のようになります。
後遺障害の種類 | 症状 | 認定可能性のある等級 |
---|---|---|
欠損障害 | 腕・脚・指などの一部や全部が失われる障害。失われた部位が広い範囲に及ぶほど、等級は高くなる。 | 1級、2級、3級、4級、5級、7級 |
機能障害 | 腕・脚・指などの関節を自由に動かせなくなる障害。骨がうまくつながらないことが原因であり、動かせない範囲が大きいほど等級は高くなる。 | 1級、5級、6級、8級、10級、12級 |
短縮障害 | 骨折によって脚の骨が元の状態よりも短くなってしまう障害。縮んだ長さによって、等級は変わる。 | 8級、10級、13級 |
変形障害 | 腕や脚に偽関節ができたり、骨がうまくつながらなかったりする障害。 | 7級、8級、10級、12級 |
神経障害 | 骨折した部分にしびれや熱さを感じてしまうもので、神経を損傷する障害 | 12級、14級 |
※認定可能性のある等級は、自賠責保険における後遺障害の等級一覧表を元に作成しています
欠損した部位や動かせなくなった部位の範囲が大きく、深刻な障害といえるケースほど重い等級が認定され、後遺障害慰謝料は増額する可能性があります。
骨折による後遺障害はケガの程度によって認められる範囲も1~14級と幅広く、等級によって慰謝料額も異なってきます。
骨折で後遺障害と認められたときの慰謝料
後遺障害認定等級を受けると、入通院慰謝料の他に後遺障害慰謝料の請求が可能になります。
慰謝料額は等級ごとに以下のように定まっています。
■後遺障害慰謝料の目安
等級 | 自賠責保険基準 | 任意保険基準 | 弁護士基準(裁判基準) |
---|---|---|---|
第1級 | 1,100万円 | 1,600万円 | 2,800万円 |
第2級 | 958万円 | 1,300万円 | 2,370万円 |
第3級 | 829万円 | 1,100万円 | 1,990万円 |
第4級 | 712万円 | 900万円 | 1,670万円 |
第5級 | 599万円 | 750万円 | 1,400万円 |
第6級 | 498万円 | 600万円 | 1,180万円 |
第7級 | 409万円 | 500万円 | 1,000万円 |
第8級 | 324万円 | 400万円 | 830万円 |
第9級 | 245万円 | 300万円 | 690万円 |
第10級 | 187万円 | 200万円 | 550万円 |
第11級 | 135万円 | 150万円 | 420万円 |
第12級 | 93万円 | 100万円 | 290万円 |
第13級 | 57万円 | 60万円 | 180万円 |
第14級 | 32万円 | 40万円 | 110万円 |
※任意保険基準は推定
※弁護士基準(裁判基準)は日弁連「民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準2020年版」参照
後遺障害認定の手続き方法
後遺障害等級認定の基本的な手続き方法としては、以下の流れとなります。
■申請のタイミング
後遺障害認定の手続きは、症状固定(治療を継続しても症状の改善が見られない状態)後に行います。
自覚症状や他覚的症状をきちんと診断書に反映させるためにも、すべての治療が完了してから手続きを進めましょう。
■申請方法
後遺障害認定の申請には、被害者請求と事前認定の2つの方法があります。
被害者請求
被害者側が後遺障害診断書などの書類をそろえ、自ら相手方の自賠責保険に請求する方法です。
手続き面での負担がある代わり、適切な等級認定を受けられやすいというメリットがあります。
事前認定
加害者側の保険会社が、損害保険料率算出機構に対して後遺障害認定の手続きを行う方法です。
被害者としては手続きが簡単である一方で、保険会社まかせとなってしまうため、正しい等級が認定されない場合もあります。
■必要書類
後遺障害認定を申請するためには、医師が作成する後遺障害診断書などを含め、次のような書類が必要となります。
・申請書
・後遺障害診断書
・レントゲンやMRIの検査データ
・交通事故証明書(事故発生状況報告書)
・診療明細書
・その他必要な書類(カルテ・専門医の意見書など)
■申請後
手続きに問題がなければ、1~2ヶ月程度で認定結果が通知されます。
被害者請求の場合は、自賠責保険会社から支払いを受けることになります。
事前認定の場合には一括支払い制度であるため、示談成立後に支払われる形となるのです。
後遺障害の認定条件や慰謝料については、以下の記事で詳しく紹介しています。
慰謝料を適正な金額で受け取るための3つのポイント
骨折の場合に適正な金額の慰謝料を受け取るためには、いくつかのポイントについて押さえておく必要があります。
「治療期間」「担当医師とのコミュニケーション」「弁護士基準(裁判基準)での計算」の3つのポイントについて見ていきましょう。
■ポイント1:治療期間は慰謝料額に影響を与える
ケガの治療期間は請求できる慰謝料額に影響を与えるので、医師の指示に従って治療を受けましょう。
完治もしくは症状固定となるまで治療を継続して、自覚症状・他覚的症状を診断書にきちんと反映してもらうことが大切です。
ただ、場合によってはまだ治療の途中であるにもかかわらず、保険会社から治療の打ち切りを告げられてしまうケースもあります。
どの程度の治療期間が適切かは医師が判断するものなので、保険会社の言いなりにならないことが重要です。
■ポイント2:担当医師とのコミュニケーションが大切
適正な補償を受けるためには、担当医師とのやりとりや連携が大切になります。
治療方針の決定や症状固定の判断、後遺障害認定に必要な後遺障害診断書の作成などは、医師が行うことになるからです。
特に後遺障害認定を受ける場合には、診断内容が等級認定にも影響を与えるので、結果的に請求できる慰謝料額にも違いが出てきます。
適切な診断書を作成してもらうためにも、医師に自分の症状をきちんと説明して、些細なことであっても伝えておくことが大切です。
「しっかり話せるかどうか不安だ」という方は、自覚症状を箇条書きのメモなどにまとめて渡すようにすると、スムーズにやりとりを進められるでしょう。
■ポイント3:弁護士基準(裁判基準)での計算
加害者側に請求できる慰謝料は、年齢や職業によって違いはないものの、計算をする基準によって大きく異なります。
自賠責保険基準・任意保険基準・弁護士基準(裁判基準)の3つがあり、この中では弁護士基準(裁判基準)がもっとも高い基準になります。
弁護士基準(裁判基準)は弁護士に依頼をすることで適用されるものなので、保険会社から提示される金額に納得できないときには、相談をしてみるのも良いでしょう。
示談交渉の場面においては、相手方の対応次第で流れも変わってきます。
適正な金額の慰謝料を受け取るためにも、慰謝料の相場を把握して、証明書類などをきちんと整えておくことが肝心です。
まとめ
骨折の場合では、通院頻度が少ないことも多いため、慰謝料に影響があるのではないかと不安を感じてしまうこともあるでしょう。
しかし、症状を適切に診断してもらえば、慰謝料に影響を与えることはありません。
また、ケガが完治せずに後遺症が残ってしまったときには、後遺障害認定を受けることで慰謝料が増える可能性もあります。
担当医師とのコミュニケーションをきちんと行い、気になる点はそのままにせず、相談をすることが大切です。
保険会社や担当医師とのやりとりで悩んでしまったときには、交通事故事案に詳しい弁護士に相談をしてみましょう。
弁護士のサポートを受けることで、適正な補償を受けることにつながるはずです。
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