2020.10.19 更新
公務員が交通事故の被害にあったときの慰謝料・逸失利益・休業損害

「労災など公務員ならではの補償はある?」
公務員として働いていて交通事故の被害者となってしまったとき、一般の会社員などと比べて請求できる損害賠償額に違いがあるのか気になってしまうこともあるでしょう。
慰謝料だけでなく、逸失利益や休業損害の計算においても、ポイントを押さえておく必要があります。
また、示談交渉が長引けば公務にも支障が出てしまう恐れもあるので、どのように交渉を進めていくべきかを考えることも重要です。
確実な補償を受けるための対応について、詳しく解説していきます。
目次
公務員でも交通事故の慰謝料額に違いはない
交通事故での慰謝料の請求は職業によって変わりはなく、公務員でも会社員でも違いはありません。
なぜなら、慰謝料は事故による精神的なダメージに対する補償だからです。
慰謝料の計算においては、職業や年齢などは関係せず、ケガの治療期間や通院の頻度をもとに算出します。
ただ、交通事故の慰謝料は「誰が計算するのか?」によって大きな違いが出ます。
自賠責保険基準・任意保険基準・弁護士基準(裁判基準)の3つがあり、特徴をまとめると次の通りです。
■自賠責保険基準
自動車やバイクの保有者が加入を強制されている保険であり、自動車損害賠償法(自賠法)を根拠としています。
交通事故の被害者に対して最低限の補償を目的としており、もっとも低い基準額になります。
■任意保険基準
保険会社が独自で設定している基準であり、一般的な自動車保険のことを指します。
金額は保険会社によって異なりますが、多くの保険会社は旧任意保険基準を踏襲した金額であるため、自賠責保険基準と同等か、それを少し上回る程度です。
■弁護士基準(裁判基準)
弁護士会が発表している基準であり、主に弁護士に依頼したときや裁判になったときに採用される基準となります。
3つの基準のうちで、圧倒的に高い金額となりますが、過去の裁判例を参考にしているので、決して法外に高いものではありません。
慰謝料の請求では、この3つの基準と被害の大きさで金額が計算されることを押さえておきましょう。
■入通院慰謝料の目安
通院期間 | 自賠責保険基準 | 任意保険基準 | 弁護士基準(裁判基準) |
---|---|---|---|
1ヶ月 | 8.6万円 | 12.6万円 | 19~28万円 |
3ヶ月 | 13.2万円 | 37.8万円 | 53~73万円 |
6ヶ月 | 51.6万円 | 64.2万円 | 89~116万円 |
※ひと月の通院回数は10回として算出
※2020年4月1日以降の基準を参考
※任意保険基準は推定
※弁護士基準は日弁連「民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準2020年版」参照
慰謝料の計算方法について詳しくは、以下の記事で解説しています。
公務員のケースでは後遺障害逸失利益の計算に気をつけよう
逸失利益とは、交通事故の被害にあわなければ、将来得られたはずの収入のことを指します。
身分が保証されている公務員は逸失利益が減額される?
公務員の給与は、一定の条件を満たせば昇給する仕組みとなっています。
会社員と比べて身分保障がしっかりとしているため、後遺障害を負ってしまったからといって必ずしも減収となるわけではありません。
逸失利益は、交通事故がなければ将来得られたはずの収入に対する補償ですから、「逸失利益が減額されるのでは?」と疑問を持つ方もいるかもしれません。
ただし、減収がないとはいえ給与が上がるペースが遅くなると、定年までの昇給幅が抑えられる可能性もあります。
この昇給が遅れてしまった分を後遺障害逸失利益として請求できるかについては、過去の判例が参考となります。
■横浜地裁の判例(平成23年1月18日判決)
信号機のない交差点で車とバイクが衝突事故を起こし、被害者が左大腿四頭筋挫傷・筋断裂などの傷害を負いました。公務員である被害者が、事故によって昇給・昇格に影響が出たとして損害賠償を求めた裁判です。裁判所は被害者の昇給が3ヶ月延び、昇格にも影響が出たとして、10万1,379円の損害を認定しました。
■札幌地裁の判例(平成28年3月30日判決)
30歳男性の公務員である被害者が、横断歩道をわたっている最中に、右折しようとした車に衝突され外傷性脳内出血・脳挫傷などの傷害を負った事案です。後遺障害1級1号(遷延性意識障害)と認定され、常時介護が必要であるとし、損害賠償の総額は4億5,381万円と算出されました。そのうち、後遺障害逸失利益として認められたのは6,780万9,633円でした。
これらの判例では、被害者が症状固定となる日までに昇給・昇格していれば本来得られていた給与と、実際に支給された給与の差額分が損害として認められています。
逸失利益の計算方法
計算方法は次の通りで、原則として公務員でも会社員でも計算の仕方に違いはありません。
逸失利益=基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応する中間利息控除係数(ライプニッツ係数)
基礎収入額
事故にあう前に得ていた収入(ボーナス・各種手当を含める)をベースに考えるもので、公務員の場合では源泉徴収票などをもとに計算します。
労働能力喪失率
事故の影響によって仕事の能力がどれくらい失われたかを示すものです。等級ごとに決まっており、以下のようになります。
等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|
第14級 | 5% |
第13級 | 9% |
第12級 | 14% |
第11級 | 20% |
第10級 | 27% |
第9級 | 35% |
第8級 | 45% |
第7級 | 56% |
第6級 | 67% |
第5級 | 79% |
第4級 | 92% |
第3級 | 100% |
第2級 | 100% |
第1級 | 100% |
労働能力喪失期間に対応する中間利息控除係数(ライプニッツ係数)
また、逸失利益は将来得られる収入を現在の価値でまとめて得ることになるため、利息分を差し引きます。
交通事故の被害者の年齢ごとに、国土交通省が「ライプニッツ係数表」として公表しています。
逸失利益の計算においては、後遺障害が仕事に与える影響と、どの程度の減収が発生しているのかが争点となりやすいのが特徴です。
また、給与自体が下がっていなくても、後遺障害などによって将来見込まれていた出世ができなくなるなどの不利益も発生します。
そのため、交通事故にあわなければ昇格によって給与が増額していたと認められる場合には、昇格分の逸失利益を請求できる可能性もあります。
公務員は休業損害についてもトラブルになりやすい?
休業損害とは、交通事故によるケガの影響で働けなくなってしまい、収入が減ってしまった損害を指します。
逸失利益との相違点としては、逸失利益は「将来の収入」に対する補償に対し、休業損害は「治療期間中の収入」に対する補償であることです。
計算方法は次の通りであり、公務員も給与所得者であるため、会社員などと計算方法は変わりません。
休業損害=1日あたりの基礎収入額×休業日数
ただし一般企業の会社員とは異なり、公務員には病気休暇制度(最大で90日の有給休暇の取得)や休職制度があります。
長期にわたって仕事を休んだとしても減収への影響は少ないため、休業損害が認められないこともあるので注意しましょう。
病気休暇制度は有給とはいっても、基本給しか支給されないものです。
付加給は補償されないため、この分は休業損害として加害者側に請求可能となります。
また、昇級できなかったことを証明できれば、逸失利益と同様に差額分を休業損害として請求することもできます。
■横浜地裁の判例(平成22年8月5日判決)
公務員(市営バスの運転手)であった被害者が休業損害として、以下のものを求めました。
・年次有給休暇使用分(25日分)
・病気休暇使用分(2ヶ月の休職期間で2割の減額分)
・休職による賞与減額分(2期分)
・休職による約2年分の昇進の遅れ(昇給が予定されていた時期から症状固定日までの給与差額分)
合計で、142万6,268円の休業損害が認められました。
■京都地裁の判例(平成20年12月24日判決)
事故発生時に公務員(府立高校の経理員)として働いていた被害者が休業損害を求めた裁判です。事故が発生する前月までの給与をもとに、1日あたりの基礎収入額は8,613円と認定されました。休業日数は576日であったため、合計で496万1,088円が休業損害として支払われています。
公務員には病気休暇制度や休職制度があるので、休業損害については相手方の保険会社と争われるケースもあります。
また、休業による有給休暇の使用や賞与の減額幅、昇給・昇格への影響などをこまかく計算していくことも大切です。
スムーズで確実な補償を受けるには弁護士への依頼も選択肢
逸失利益や休業損害に見られるように、交通事故の被害者が公務員の場合、会社員と比べて手厚い身分保障がなされています。
そのため、加害者の保険会社などから補償の必要性が疑われる可能性があります。
また、示談交渉が難航してしまうと、公務の妨げとなってしまえば、昇進にも悪影響(出勤時間・日数が昇進に影響)が出てしまいます。
加害者の対応が不誠実だったり、保険会社から提示された金額が少なかったりしても、感情的になってしまえば交渉に時間ばかりがかかってしまう恐れもあります。
落ち着いて行動していくためにも、弁護士という第三者による示談交渉も検討してみましょう。
交通事故事案に詳しい弁護士に依頼をすることで、保険会社とのやりとりを任せることができます。
弁護士基準(裁判基準)が適用されるため、慰謝料・逸失利益・休業損害として請求できる金額が増える可能性もあるのです。
スムーズに示談交渉を進め、確実な補償を受けるためにも弁護士のサポートを受けてみましょう。
まとめ
公務員として働いて交通事故の被害者となってしまった場合、慰謝料額には影響はありません。
しかし、逸失利益や休業損害については、公務員は手厚い身分保障があるため、保険会社と揉めてしまう可能性もあるでしょう。
示談交渉が長引けば、公務にも支障が出てしまうので、昇給・昇格にも悪影響が出る恐れもあります。
1人で悩んでしまう前に、交通事故事案に詳しい弁護士に相談をしてみましょう。
弁護士のサポートを受けることで、適正な補償を得ることにつながり、早期に問題解決を図れるはずです。
交通事故の無料相談はこちら
弁護士法人ステラ
0120-856-040