2020.10.17 更新
症状固定の判断は医師が行う!交通事故における症状固定のタイミング
「保険会社から『症状固定はまだ?』と聞かれるのですが、どういうこと?」
「症状固定と診断された後の対応は?」
症状固定は、【これ以上治療を続けてもケガの回復や改善が見込めない】状態を指します。
と同時に、交通事故の被害者にとって非常に重要なポイントになります。
なぜなら、保険会社からの治療費や休業損害が打ち切られますし、症状が残ったら後遺障害の等級認定も必要になるからです。
そのため、まだ治療を続けているにもかかわらず、相手方の保険会社から「治療費の支払いを打ち切ります」「症状固定にしましょう」といわれるケースもあります。
しかし、くれぐれも安易に同意してはいけません。
症状固定の判断は医師が行うものであるため、きちんと相談をしながら進めていきましょう。
この記事では、症状固定による損害賠償への影響やケース別の症状固定のタイミング、症状固定後の通院や示談までの流れについて解説していきます。
目次
症状固定とは?判断基準や治療・示談への影響
症状固定は治療費や慰謝料など損害賠償に深く関わる重要なポイントです。
判断するのは医師ですが、治療や示談に影響を与えるため基本を把握しておくことが大切です。
判断基準の根拠となる部分について、医学と法律の両面から理解を深めておきましょう。
また、治療費を打ち切られてしまった場合の対処法についても紹介します。
症状固定の医学的根拠・法的根拠とは?
症状固定は医学的な面から見て、投薬やリハビリなどこれ以上治療を続けても症状の改善が見られない状態を指します。
ケガが完全に治る場合と異なり、症状固定では後遺症が残ってしまうケースもあります。
法律的な面から見たときには、症状固定は損害賠償に関係するものです。
被害者のケガが治らなければ、加害者側は治療費を支払い続けなければならないため、症状固定のタイミングが重要になるのです。
症状固定となると被害者は治療費の請求ができなくなり、交通費・付添看護費・休業損害・入通院慰謝料なども請求できなくなります。
一方で、症状固定となっても後遺症が残っているときには、(後遺障害)慰謝料や逸失利益(将来得られるはずだった収入)、介護費用などを請求できる可能性もあります。
いずれにしても、症状固定となるとその後の請求は損害賠償としてまとめられます。
症状固定と判断するのは医師
症状固定の診断を下せるのは、医師だけだという点にも注意が必要です。
相手方の保険会社から症状固定を勧められたからといって、そのまま受け入れることはありません。
ケガの治療具合をよく見極めて、担当医師に相談をしてみましょう。
また、整骨院や接骨院では症状固定の診断を受け入れられません。
整骨院では症状を和らげるための施術が受けられるだけなので、医師に判断を仰ぐことが大切です。
治療や示談に与える影響
症状固定について医師からの正式な診断がない場合でも、相手方の保険会社が一方的に治療費の支払いを打ち切ってくることもあります。
ただ、いったん治療費を自分で立て替えて、後から請求することもできるので冷静に対応しましょう。
「治療費の請求に応じてくれない」など、保険会社と揉めてしまったときには交通事故問題に詳しい弁護士に相談してみてください。
弁護士を通じて交渉することで、治療費の支払いに応じてもらえる可能性もあります。
治療を途中で打ち切られてしまうと、その分だけ治療期間が短くなってしまう形となるため、慰謝料の請求など示談交渉にも影響が出てしまいます。
「治療期間が短い=症状が軽い」と判断される恐れがあるからです。
納得できる損害賠償を行うためにも、医師から症状固定と診断されるまで治療は継続したほうがよいといえます。
治療費を打ち切られてしまった場合の3つの対処法
治療を続ける意思があるにもかかわらず、相手方の保険会社から治療費を打ち切られてしまったときには、以下の3つの対処法があります。
(1)加害者の自賠責保険に請求する
加害者側の保険会社が治療費の支払いに応じてくれないときには、加害者が加入している自賠責保険に対して、治療費などの支払いを直接的に請求できます。
この仕組みを「被害者請求」といいますが、手続きは複雑な面もあるので弁護士に相談してみるのも1つの方法です。
また、加害者の保険会社が一括対応をしている場合には、保険会社から病院に直接治療費が支払われるケースが多いので、被害者自身が立て替える必要はありません。
「一括対応」というのは、任意保険会社が自社の保険金の支払いと自賠責保険をまとめて支払う仕組みのことを指しています。
ただし、相手方の保険会社が一括対応をしていないときには、被害者が治療費などをいったん立て替える必要も出てくるので注意しておきましょう。
被害者請求の手続き方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
(2)健康保険を利用する
交通事故によるケガの治療でも、健康保険を使うことができます。
加害者相手方の保険会社から治療費の支払いを打ち切られてしまったときには、治療費を立て替えなければなりません。
もちろん支払った治療費は示談交渉で、請求できますが、支払いが苦しくなることもあるでしょう。
健康保険を使えば3割負担で治療を受けられるため、治療費の負担が軽減できます。
ただ、健康保険を使うときには「第三者行為による傷病届」を健康保険組合に提出する必要があるので、忘れずに手続きを済ませましょう。
交通事故の治療で健康保険を利用する際の注意点やポイントは以下の記事で紹介しています。
(3)労災保険を利用する
仕事中や通勤途中での事故によってケガをしてしまったときには、健康保険は使えません。
その代わりに、労災保険が適用されるので、勤務先に相談をしましょう。
労災保険は、正社員やパート・アルバイトといった雇用形態に関係なく適用されます。
交通事故の治療で労災保険を利用するポイントや注意点は、以下の記事で紹介しています。
【症状別】症状固定までの期間の目安は?
症状固定の目安となる時期
症状固定までにかかる期間は、ケガの程度や治療の進み具合によって違ってきます。
しかし、症状ごとにおおよその目安はあるので、以下の表を参考にしてみてください。
症状 | 症状固定となる目安の期間 |
---|---|
むちうち(頸椎捻挫) | 3ヶ月 |
打撲 | 1ヶ月 |
骨折 | 6ヶ月 |
腰痛(腰椎捻挫) | 3~6ヶ月 |
高次脳機能障害 | 1~2年 |
遷延性意識傷害 | 1年6ヶ月 |
相手方の保険会社はまだ治療が継続しているにもかかわらず、「症状固定にしましょう」と伝えてくることがあります。
症状固定となり、治療費の支払いを完全に打ち切られてしまうと、その後に支払いを再開してもらうのは難しくなります。
安易に保険会社の意見を受け入れず、担当医師とよく相談をしてみましょう。
保険会社が症状固定を催促する理由は?
加害者の保険会社が症状固定を催促してくるのは、加害者側の損害賠償の負担をなるべく減らしたいからです。
もちろん被害者にも十分な配慮と補償がなされるケースもありますが、負担額は抑えたいのが本音でしょう。
症状固定の前後において、慰謝料や損害賠償金は分けて計算されます。
保険会社に請求できる損害賠償の項目としては、以下のように区分できます。
治療中(症状固定前) | 症状固定後 |
---|---|
・治療費 ・交通費 ・休業損害 ・入通院慰謝料 ・付添看護費など |
・後遺障害慰謝料 ・逸失利益など |
症状固定日がいつになるかは、時効の起算日にも影響してきます。
交通事故など損害賠償請求権の時効
・後遺障害等級認定を受けなかった場合・・・事故日から3年※
・後遺障害等級認定を受けた場合・・・症状固定日から3年※
※2020年4月1日以降に発生した交通事故については法改正により5年になります。
時効によって損害賠償ができなくなってしまわないように気をつけましょう。
後遺障害等級認定から示談までの流れ|慰謝料とその他の損害賠償
症状固定後に残った後遺症に対して慰謝料を受け取るためには、後遺障害の等級認定を受ける必要があります。
その症状が後遺障害として該当するものなのか、または該当するとすれば何級にあてはまるのかを明らかにすることが大切です。
後遺障害の等級認定手続きは、症状固定と診断されてからでないと行えない点に注意をしておきましょう。
後遺障害認定とは?
医師から症状固定と診断されてからも残っている症状のことを後遺症といいます。
そして、後遺症の中でも医学的に証明され後遺障害認定を受けたものを後遺障害と呼びます。
後遺障害認定は症状固定後に、医師に後遺障害診断書を作成してもらい、必要書類を提出して審査を受けます。
症状や程度によって認定される等級は異なりますが、慰謝料などの請求にも影響するため、示談交渉を行う前に認定手続きを進めておきましょう。
後遺障害認定から示談の流れ
(1)医師に後遺障害診断書と検査データの作成を依頼する
後遺障害の等級認定を受けるためには、交通事故と後遺症の因果関係を裏付ける証明が必要です。
ですので、医師とよく相談して、後遺障害診断書のほかにも、レントゲンやMRIなどの検査データを用意してもらいましょう。
後遺障害認定に必要な書類については、以下の記事で詳しく解説しています。
(2)保険会社に必要書類を提出
すべての書類が整ってから申請を行ってから、実際に等級認定を受けるまでには1~2ヶ月程度かかります。
手続きは被害者自身が行う「被害者請求」と、相手方の保険会社に手続きを任せる「事前認定」があります。
事前認定では、後遺障害診断書を提出すれば加害者の保険会社が手続きを行ってくれるので、負担を軽減できます。
しかし、申請書類に不備があってもそのまま手続きを進められてしまうため、本来認定されるべき等級よりも低くなってしまうケースもあるので注意が必要です。
一方で、被害者請求の場合はすべての書類を自分でそろえる必要があるため、労力がかかってしまう面があります。
ただ、じっくりと検討してから手続きを行えるので、納得のいく結果を得やすくなります。
後遺障害認定を被害者請求の手続き方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
後遺障害慰謝料 の算定基準と相場の目安
後遺障害と認定されると、加害者側に対して後遺障害慰謝料の請求が行えます。
計算をする基準は3つ(自賠責保険基準・任意保険基準・弁護士基準)あり、弁護士基準が最も高い金額を請求できます。
むちうちを例として、等級別の後遺障害慰謝料をまとめると以下の表のようになります。
自賠責保険基準 | 弁護士基準 | |
---|---|---|
12級13号 | 93万円 | 290万円 |
14級9号 | 32万円 | 110万円 |
※公益財団法人日弁連交通事故相談センター編 東京支部編『民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準』参照
むちうちの場合では、後遺障害等級の12級13号もしくは14級9号に認定されるケースが多いです。
等級が異なるだけで、請求できる後遺障害慰謝料にも大きな違いがあるので意識しておきましょう。
なお、任意保険基準については保険会社によって異なりますが、自賠責保険基準と同程度か、少し上回るケースの場合が多いです。
後遺障害等級と慰謝料については、以下の記事で詳しく解説しています。
逸失利益などのその他の損害賠償
症状固定後に後遺症が残ったら、後遺障害認定を受けることが大切です。
等級認定を受けることで、後遺障害慰謝料の他にも逸失利益や休業損害などのさまざまな損害賠償が行えます。
加害者側に請求できる損害賠償は多岐にわたるため、どのような項目があてはまるのか気になるときには弁護士に相談してみましょう。
症状固定時はトラブルも…そんなときは弁護士に相談!
症状固定と診断されると、
・加害者側からの治療費が打ち切りになる
・後遺症が残れば後遺障害認定を受け、等級に応じた慰謝料を請求する
など、交通事故示談においては重要なポイントです。
そのため、保険会社から症状固定を催促されるなどのトラブルが生じたり、後遺障害認定の手続きなど、さまざまな対応も必要になります。
もし症状固定と診断されて、お困りであれば弁護士に相談してみましょう。
弁護士に依頼をすることで弁護士基準が適用されるため、加害者の保険会社が提示する金額よりも慰謝料が増える可能性が高いです。
交通事故問題に詳しい弁護士であれば、後遺障害の等級認定手続きなどについて専門的なアドバイスを受けられるため、心強い味方となってもらえます。
また、治療中にも関わらず、保険会社から治療費の打ち切りを通達された場合も、弁護士であれば法的な根拠を用意して交渉してくれます。
加入する保険会社の弁護士費用特約を利用すれば、費用の負担を軽減できるので弁護士に依頼をしやすくなるはずです。
示談交渉や後遺障害の等級認定手続きで悩んだときには、まずは相談をしてみることが大切です。
まとめ
症状固定の診断は医師が行うものなので、保険会社から勧められても安易に応じてしまってはいけません。
医師とよく相談をしたうえで症状固定のタイミングを探り、診断を受けてから後遺障害の等級認定手続きを行いましょう。
後遺障害と認められることで、加害者側に請求できる損害賠償金も増えるので、事故後の生活設計も立てやすくなります。
相手方の保険会社との示談交渉や後遺障害の等級認定手続きには、時間や労力がかかる面もあるので、1人で悩んでしまったときには弁護士に相談してみましょう。
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